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ホワイトカラーからナレッジワーカーヘ
「なぜ、今 ナレッジワーカーなのか」

戦略経営システム研究所 代表
林 誠 著

1.知識社会とナレッジワーカー

 21世紀は知識社会だといわれる。そして、日本企業に求められている新しい人材のモデルとして、“ナレッジワーカー(知識労働者)”が注目を集めている。まず、企業において、なぜナレッジワーカーが求められているのか、その背景について考えてみたい。

 知識の重要性と知識社会の到来については、多くの識者が述べている。未来学者のトフラーは、「知識は高貴な力の源泉であり、来るべきパワーシフトの鍵を握っている。(パワーシフト1990年)」 として知識を、社会の変革を引き起こす重要な資源として位置づけた。また、ドラッカーは、「新しい経済においては、知識は単に伝統的生産要素としての労働、資本、土地と並ぶもう一つの資源というより、ただ一つの意味ある資源である。(ポスト資本主義社会1993年)」として、資本主義社会の次に知識社会の到来を予言した。 

 ここで、あらためて人類の歴史の変遷を振り返ると、狩猟採集社会→農耕社会→工業社会→知識社会(現在)と社会が変遷したといわれている。こうした社会の変遷の際に、三つの大きな革命が起こっている。最初は、農業革命による農耕社会への移行、次が産業革命による工業社会への移行、そして現在進行中のIT革命による知識社会への移行である。

 これまでの革命について整理すると次の通りである。

(1)農業革命
 数万年前に起こった人類最初の革命である。自然の植物や動物を採取・捕獲して食糧としていた時代から、自らの住居の近くで植物を栽培する時代へ移行したのである。この農業革命によって、人類が土地に定着して暮らすことが可能となったのである。

(2)産業革命
 次に起こったのが、18世紀の産業革命である。産業革命は動力の革命ともいわれている。産業革命によって、牛馬や水や風などのエネルギー源から、それらの数万倍もの力を出すエネルギー源へ移行したのである。エネルギーで動く機械は、いわば手や足の 「代替」 として発展してきたといえよう。
 この産業革命によって工業社会が出現し、人類の生活、ライフスタイルは一変した。会社と家庭生活が分離し、家族一体型の生酒が、大きく変わることとなったのである。簡単にいうと、獲物や作物を取るスタイルから、会社に出社し、お金を取ってくるというスタイルに変化したのである。貨幣経済が大きく発展することとなり、今日の産業社会を発展させてきた。

(3)IT革命
 そして、現在進行中といわれているのがIT革命である。IT革命とは、ITによる社会構造・産業構造の大変革や地球規模の経済活動の大変革をいう。産業革命が手や足の代替であったのに対し、IT革命は、人間の脳の機能を 『代替』する社会の創造である。ドラッカーやトフラーが、21世紀を知識社会と呼んでいるのはそのためである。IT革命のキーテクノロジーは、コンピュータとインターネットであることはいうまでもない。インターネット技術の進歩は、これまでの人間のコミュニケーションのありかたを大きく変えることとなった。
 産業構造や人間のライフスタイルまで大きな影響を与えている。IT革命は、人間のコミュニケーションの革命でもある。その結果、従来にない新しい形態の企業のビジネスモデルが生まれつつあり、また個人のビジネススタイルも大きく変わりつつある。ナレッジワーカーはIT革命の産物ともいえるのである。
 産業の側面でみても、工業社会の中心であった労働集約型産業から、知識社会での知識集約型産業へとシフトしつつある。ナレッジワーカーは、とくに知識集約型産業において求められる人材でもある。
 労働集約型産業と知識集約型産業の違いは、その産業が提供する製品やサービスに多く投入された経営資源が何か、による。すなわち、労働集約型産業は労働力を多く投入して作られた製品やサービスを提供する産業であるのに対し、知識集約型産業は知識や技術を多く投入する産業である。
 知識集約型産業の代表的なものとしては、コンピュータ関連産業、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー関連の研究開発型産業、教育産業などがあげられる。知識集約型産業は業種でみると製造業が多いが、知識やソフトウェアが中心となるため、サービス産業にもまたがっている。今後は、IT革命の進展により、知的財産をベースにした新しいサービス業の創出も期待される。またバイオテクノロジーをベースに、農業の生産プロセスにも革新を引き起こす可能性も期待されており、第一次産業から第三次産業まで横断的に融合している産業でもある。
 ITバブルが崩壊して以降、IT革命は死語になってしまった観がある。しかし、企業も国も競争力を強化するためには、今後もIT化の推進が重要なことには変わりがない。ITは産業全体のインフラであり、すべての産業の発展に必要なものであるからである。またITの進展で人間のコミュニケーションに革命的な変化が起こっていることは事実であり、歴史の転換点にいることは間違いない。

2.ナレッジワーカーとは

 ナレッジワーカーが注目されだしたのはごく最近である。このナレッジワーカーという言葉を最初に提唱したのはドラッカーであるが、実はかなり古い言葉であり、すでに一九六〇年にその著書『新しい現実』 で定義している。ドラッカーは、これまでの工業社会の担い手であったスキルワーカー(技能労働者もしくはブルーカラー) に代わる、知識により付加価値を生み出す、知識社会の担い手としてナレッジワーカーを位置づけたのである。
 すなわち、ナレッジワーカーは企業に対して労働を提供する労働者ではなく、知識という生産手段を所有する存在なのである。この点がホワイトカラーとの大きな違いである。ナレッジワーカーという言葉は聞くがよくわからないという声も多い。スキルワーカーやホワイトカラーと比較したナレッジワーカーの特徴は次の通りである。
(1) 価値、意味を重視する
 従来のスキルワーカーやホワイトカラーが手続きやルールを遵守していたのに対して、ナレッジワーカーは価値や意味を重視する人材である。
(2)自律的に仕事を行う
 ナレッジワーカーは与えられた仕事を処理するという姿勢ではなく、自律的、主体的に仕事に取り組むという姿勢を持っている。
(3)専門領域に対して帰属意識を持つ
 ホワイトカラーとナレッジワーカーの大きな遠いとして、日本ではこれまでホワイトカラーを、基本的にはゼネラリストとして育成してきたのに対し、ナレッジワーカーはベースがスペシャリストである点があげられる。また、専門領域を持つということでのスキルワーカーとの違いは、従来のスキルワーカーが企業に対して帰属意識を持ったのに対して、ナレッジワーカーは専門領域に対して帰属意識を持っていることである。また仕事の目的、意味、価値に即して仕事を行うという特徴がある。
(4)創意工夫を加える
 与えられた仕事をきちんとこなすことが評価になっていたスキルワーカーやホワイトカラーでは、仕事の生産性向上が求められた。ナレッジワーカーは創意工夫を加えることにより、仕事の有効性と効率性を高めるという特徴を持つ。最近、グループウエアの導入目的が、ホワイトカラーの生産性向上からナレッジマネジメントによる知識創造へと変化しているのは、ホワイトカラーがナレッジワーカーへと移行しつつあるためともいえよう。
(5)ナレッジを積極的に活用する
 スキルワーカーやホワイトカラーには、ルールに基づき決められた情報を正確に処理することが求められた。これに対してナレッジワーカーは、定形、否定形を問わず、社内外の人的ネットワークやインターネットなどのITを使って、利用できる情報を積極的に活用し、仕事に役立てるという点が大きく違う。

以上のナレッジワーカーの特徴について、スキルワーカーと比較すると表のようになる。

スキルワーカー ナレッジワーカー
手続き、ルールを遵守する 価値、意味を重視する
管理者の監督による職務の遂行 自律的な行動を尊重する
企業に対して帰属意識を持つ 専門領域に対して帰属意識を持つ
専門分野のみに関心を持つ 専門分野以外にも広い関心を持つ
規則や前例にしたがって仕事を行う 仕事の目的、意味、価値に即して仕事をする
決められた与えられた役割の仕事を行う

創意工夫を加えて仕事の有効性と効率性を高める
新しいビジネスチャンスを創造する

決められたルールにしたがって仕事を処理する。

利用できるナレッジを活用し積極的に仕事に役立てていく


 スキルワーカーやホワイトカラーが階層化された企業組織に属し、分業化された業務を担っていたのに対し、ナレッジワーカーは個人の個性や主体性に基づいて、ネットワークで結びついて知を創造するという点が大きく適う。そして、ナレッジワーカーは企業ではなく、専門領域への帰属意識が高いため、企業内にとどまらず、企業内外でコミュニティ・ネットワークを持っていることが特徴である。

 したがって、企業がこうしたナレッジワーカーを活かすためには、人事や教育、評価制度といった部分的な変革だけでなく、新しい企業戦略モデル (ビジネスモデル) が求められるのである。 知識社会に移行した現在、企業の競争優位の源泉が変化し、知識により価値を創造するビジネスモデルが生まれてきている。したがって、ナレッジワーカーは単に教育、人材育成でどうすべきかという観点だけでなく、二十一世紀に企業が勝ち抜いていくための企業戦略モデルのレベルで考えていく必要があるのである。

3.ナレッジワーカーは企業間競争のキー

 最近の企業を取り巻く経営環境は厳しい。メガコンペティション(大競争時代)といわれるように、グローバリゼーションが進展し、企業間の競争が国の枠を越えて行われ世界的な規模で、多くのライバル企業と競争しなければならない時代に突入した。
 グローバル競争を引き起こしている要因の一つに、ITの急速な進歩がある。企業は、競争力を維持するために、一層の効率的な経営が求められている。付加価値の高い分野で新たなビジネスを展開する一方、企業の内部でも顧客のニーズや素材・部品調達先の供給に関しての情報収集能力や分析力を持ち、企業の販売・物流・生産プロセスにおけるコストや時間を圧縮することが重要となっている。
 これを実現するために、多くの企業はITを活用した新たなビジネスモデルの構築に取り組んでいる。たとえば、BtoB(Business to Business:企業−企業間)やBtoC(Business to Consumer:企業−消費者間)など、インターネット技術とデータベースによって新しく構築するeビジネスのモデルがある。また、既存のビジネスの方法にインターネット販売の仕組みを組み込んだ、クリック&モルタルもある。さらに、顧客との関係性を高めるCRM (Customer Relationship Management)や、得意先や供給先との最適なビジネスプロセスを構築するSCM(Supply Chain Management)などがある。こうした動きは、いずれもビジネスプロセスのなかで付加価値を生み出すバリューチェーンの再構築をねらいとしている。
 現在、企業間の競争は複雑化し、企業対企業からサプライチェーン対サプライチェーンの競争へと変化しつつある。また競争優位の源泉は、製品やサービスだけでなく、ビジネスモデルやビジネスプロセスの競争へと比重が移りつつあるが、その先にあるのが、 知識と人材の開発〃による競争優位性の獲得競争であるといわれている。
 アメリカNRC (全米科学アカデミー) では、2000年に、2020年の製造業のあり方に関する調査報告書「Visionary Manufacturing Challenges for 2020」を発表した。同報告書では、「画期的な製品といえども4〜5年もあれば、他社に模倣される。優れた生産手法や開発体制も、競合企業が本気になって追いつこうとすれば、7〜8年で追いつかれる。最もキャッチアップがむずかしいのは、”人の能力や資質〃である」 ということが述べられている(図)。つまり、企業においては、人間の能力こそが最も重要であるということを、あらためて指摘しているのである。
 この背景には、かつて1980年代にアメリカの多くの製造業がリストラで大規模な人員削減をおこなってきたことがあげられる。無駄を省いたリーン組織を志向し、多くの熟練エンジニアを削減した結果、多くの企業では業務に支障をきたし、失って初めて人間の知識や能力の重要性に気がついた。その結果、カットした人材を再雇用せざるを得ないケースも多かったのである。不要とみなされていた中間管理職も、知識をコーディネートする 〃ナレッジワーカー〃としての重要な役目を担っていた人間が多かったことも判明し、ナレッジマネジメントが注目されるようになったのである。
 これまで、経営の世界におけるITは、MIS (Management Information System:経営情報システム) から発展し、DSS (Decision Support System:意思決定支援システム) や人工知能など、人間の判断や意思決定をITや技術に置き換えていくというアプローチで進められてきた。しかし最近では、経験を積んだ人間の能力や判断をITや技術で置き換えるというアプローチは、誤りであったということが指摘されつつある。現実に多くの企業においてITで置き換えられたのは、単純なルーチンワークなのである。
 人員が余剰になっているという企業でも、技術力、企画能力、提案能力などの専門能力を持った人材は不足しているという。つまり、企業では、ロボットやITで置き換えられるスキルワーカーやホワイトカラーから、“ナレッジワーカー”へとシフトしていくことが求められているのである。

図 人間の能力が製造業の競争力を決める


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